よく「3年離職率が3割を超えるとブラック企業の仲間入り」などと耳にしますが、平成29年に厚生労働省から発表された新規学卒就職者の3年以内離職率は、大卒、高卒とも3割を超えています。(大卒:32.2%、高卒:40.8%)
「離職率の高さ」は一部の特殊な企業の課題ではないのです。
企業にとって人は財産。せっかく採用した人材が不本意な形で退職してしまうことは、お互いに不幸なことですよね。
ここでは、離職の原因やその対処法などについて解説していきたいと思います。
離職率の高さが与える影響(対社内・対社外)
離職率が高いことに対して漠然とした危機感を持っている企業は多いと思いますが、離職率の高さがもたらす具体的な影響とはどのようなものがあるでしょうか?
★社内に与える影響
・コスト面
採用費・教育費などの経費が無駄になる。新規の採用・教育費がかかる
・生産性
技術の継承、ノウハウの蓄積がしにくく生産性が低下する
・モラル低下
人員不足によるストレス蓄積、人間関係へも影響
・機会損失
人員不足、スキル低下のため、本来得られるはずの売り上げ・利益が目減りする
★社外に与える影響
・採用活動
応募者や大学・高校などがブラックなイメージを持ち、優秀な人材の確保が難しくなる
・営業活動
生産性が低下し、企業間の信頼関係が損なわれる
離職者が多い状態が慢性的に続けばこれら複数あるいはすべての影響を受け、重大な損失へとつながる危険性が高まります。また、いったん離職率が高くなるとさらなる離職につながり負のスパイラルへと陥ることもよくありますので、離職率が高まる兆候を見逃さないことが重要です。
離職率が高い5つの原因とは?
離職率を下げるためには、まず社員がやめていく原因を特定する必要があります。
10名の離職者がいれば10通りの理由があるのは当然ですが、厚生労働省「平成25年度若者雇用実態調査の概況」では、初めて勤務した会社を辞めた主な理由を年齢、男女、学歴別に類型化しています。
これによると「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」が22.2%と最も高く、以下「人間関係がよくなかった」19.6%、「仕事が自分に合わない」18.8%と続きます。
これは離職者の立場に立った調査ですが、調査結果を企業側に置き換えると、離職につながる5つの大きな原因が見えてきますので解説していきます。
① 待遇が悪い
・休日出勤をしている社員が多い、それを黙認している
・サービス残業が日常茶飯事、それを良しとする雰囲気がある
② 職場の人間関係が悪い
・指示が不明瞭、理不尽な怒り方、業務に対するフィードバックがない(縦の関係)
・情報共有の場がない、同年齢の社員との交流の場がない、(横の関係)
・皆機嫌が悪い、挨拶やねぎらいの言葉をかけあわない
③ 職務内容、評価制度に欠点がある
・若手社員は単純作業が多く、新しい仕事を任せない
・評価制度が確立しておらず、上司による属人的な評価がなされている
④ 経営・事業内容が安定していない
・業績が不安定で賞与の支給実績が右肩下がり
・事業が頭打ちで年齢に見合ったポストが用意できない
⑤ ミスマッチが起こっている
・明確な採用基準がない、採用担当者の経験や勘だけに頼って採用を行っている
・内定辞退者、退職者を見込んで多めに採用している
5つの原因はそれ単独でも離職の理由となる場合もありますが、離職率が高い企業の多くはこれら複数の原因が重なって存在し、社員に慢性的な不満・不安を与えている現象が見られます。
複数項目が該当する企業は、今のところ離職率に問題を抱えていなくても将来的に離職者が増えていく可能性があるため注意が必要です。
離職率が高い場合の対策とは?
(3〜5つ。無料ですぐできることから、費用のかかるものまで)
先に挙げた5つの原因(待遇・人間関係・評価制度・安定性・ミスマッチ)のうち、あなたの会社で社員がやめていく原因が特定できれば対策を講じることができます。
とはいえ、社員の業務時間を削減すると生産性に影響も出ますし、制度改革のために外部の人事コンサルを導入するのはコスト面でためらう場合もあると思います。
そこで、まずはコストをかけずに簡単にできる離職対策をご紹介いたします。
① 特別休暇の取得を推進する
休日出勤や残業が多くなるとワークライフバランスが崩れ離職の原因にもなるため、政策的に削減するに越したことはありません。しかし業務の性質上などでただちに改善することが難しい場合、連続休暇の取得を推進することで社員のプライベート充実を図るという方法もあります。実際に社員全員が7日以上の連続休暇を取得することで離職率が下がるだけでなく生産性も向上するというデータもあります。
② 朝礼の実施
朝礼はその日のイベントや業務の確認だけでなく、社内(部署内)で情報や目的を共有することでチームとしての意識が芽生え、円滑なコミュニケーションの促進に役立ちます。職場内で活発にコミュニケーションがとられるようになれば仕事を通じて人と人とのつながりができてきますので、職場環境悪化を予防することが期待できます。
③ 定期的に面談、懇親会を実施する
面談は上司部下の「縦の関係」「仕事上の関係」の正常化、懇談会は上司部下を超えた職場の同僚としての「横の関係」「仕事以外の関係」の正常化に役立ちます。
人が離職する原因(人間関係)としては、実は仕事上の関係よりも実は仕事以外の関係が起因していることが多いので、併せてケアすると効果的です。
次に費用は掛かりますが効果的な取り組みです。
④ キャリアコンサルティングの導入
社内でキャリアコンサルティングを実施する目的は、社員の自律したキャリア形成の支援や仕事に対する動機付け(モチベーション管理)などがありますが、メンタルヘルス対策においても非常に有効な手段です。社員が抱える不安や不満を口に出すことで自主的、あるいは組織的な解決へと繋がることも多く、離職対策としても非常に有効です。
自社でキャリアコンサルタントを雇用する方法と社外のキャリアコンサルティングサービスを利用する方法がありますが、費用対効果を考えると後者がお勧めです。
社外のキャリアコンサルタントを探す場合は、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会のHPを参照にするとスムーズです。
対策を取る際の3つの注意点
上記の対策は社員の離職に歯止めをかけることが期待されますが、完全に遂行されなければ意味がなく無駄な労力やコストがかかってしまうだけです。
「対策を打つこと」が目的となってしまわないためには以下のポイントに注意してください。
① 休暇取得は上司から
社内が普段休めない環境であればあるほど社員が自ら休暇取得を口に出しにくいものです。社会通達などで休暇取得を促すだけではほとんど役に立ちません。全ての社員が公平に連続休暇を取得するためには次のような工夫が必要です。
・役員、役職者が率先して休暇を取得
・社員全員に取得計画の提出を義務付ける
・役職者の評価項目に部下の休暇取得率を盛り込む
② 懇親会は参加しやすい形式で
懇親会は横の関係を正常化、維持することに役立ちますが、皆が参加しやすい状況を作ることが大事です。アルコールや飲み会の雰囲気が苦手な人もいますし、夜遅くまで参加したくないと考えている人もいるかもしれません。懇親会の形式は「飲み会」形式にする必要はなく、「ランチミーティング形式」「ティータイム形式」など多くの社員が参加しやすい形式で開催するのが良いでしょう。勤務時間外に実施する飲み会などはあくまで自由参加とすし、参加を強要することのないようにしましょう。
③ 制度は「運用して」初めて効果がある
例えば、育児休暇やリフレッシュ休暇制度など社員の福利厚生のための制度も実際に運用されていなければ何の意味もありません。また、部署ごとに所得率に差があるとかえって不満につながる場合もあります。制度が運用できるかどうかは社員やその上長にゆだねるのではなく、社を上げて関与して達成していかなければなりません。
【さいごに】
離職につながる理由とその対策を見ていきましたが、まずは自社が置かれている状況を把握することが最も重要です。離職率が高いという問題があれば、個々の事例をもとにその理由を突き止め、有効な対策を講じていかなければ改善されることはありません。
また、対策は効果の測定と微修正を重ねて継続してくことで初めて効果が表れます。「やりっぱなし」にならないように注意しましょう。
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