仕事をしていても「目標がない」「やりがいがない」「面白くない」だから「向上心がない」と感じている人は意外と多いのではないでしょうか?
これには「自己実現欲求」というものが関係しているかもしれません。
実は近年、仕事において自己実現欲求を持つ人が少なくなってきたといわれています。
★自己実現欲求とは
アメリカの心理学者、アブラハム・マズローは人間の欲求を5段階で理論化しました。(マズローの5段階欲求説)
その中で最上位に位置するのが自己実現欲求であり、「自分の持つ能力や可能性を最大限に発揮したい」というものです。
マズローの5段階欲求説は下記のとおりです。数字が高くなるにつれてより高度な欲求となります。
生理的欲求
安全の欲求
社会的欲求
承認の欲求
自己実現欲求
この説では、低い階層の欲求が満たされると次の段階へ移行する、低い欲求が満たされなければ決して高い欲求に移行することはないそうです。
今回はそんな「欲求」、特に「自己実現欲求」についてのお話です。
ビジネスシーンにおける5段階欲求
自己実現欲求について語るには低階層の欲求の話から始める必要があります。
以下にビジネスの事例を交えて解説したいと思います。
1.生理的欲求
生理的欲求は、「食欲」「性欲」「睡眠欲」をはじめ、呼吸や排せつなど、生きるために最低限必要なものを求める欲求、いわば生命を維持するための欲求と言えます。人間も生物である以上はこれらの生理的欲求を満たさずにはいられません。生命が維持されて初めて欲求は次の段階へと移ることが出来るのです。
ビジネスシーンでこれを当てはめるのは非常に難しいのですが、あえて言えば「就業したい」という基本的な欲求でしょうか。雇用形態はどうであれ、まずは就業しなければ次のステップへは進めませんよね。
2.安全の欲求
生理的欲求が満たされ、生命活動の維持に対する不安がなくなると、次は安全の欲求へと移行します。身の安全・保全を担保されたいという欲求です。健康を維持したい、地震や台風が来ても心配のない丈夫な家に住みたい、政治的な不安・混乱から逃れたい、自分を守ってくれる法律が整備された国に移住したい、などもこれに当たります。
欲求階層では、この安全への欲求までを「物質的欲求」と呼び、人種・文化を超越して世界中の多くの人々が共通して持っている欲求といえます。
ビジネスにおいては、正規雇用で働きたい、福利厚生の充実している会社で働きたい、給与を上げて欲しいなど、雇用の安定に対する欲求がこれに当てはまるのではないでしょうか。
3.社会的欲求
過ぎのステップは社会的欲求です。これ以降の欲求を「精神的欲求」とよび、「物質的欲求」と区別されています。
社会的欲求とは「所属と愛の欲求」とも呼ばれており、「他人と社会的な関わりたい」、「誰かに愛されたい」、「何かのコミュニティの属したい」、など社会的なつながりを求める欲求です。
ビジネスにおいては以下のようなことが当てはまると考えます。
・非正規雇用から正社員となり雇用・給与は安定したが、一人で黙々とこなす作業しか与えられていない。周囲の先輩たちは様々なプロジェクトチームに参加して相互協力しながら業務に取り組んでおり、自分だけが取り残されたような気がしている。自分もチームに所属し、メンバーと協力して仕事に取り組みたい。
このような欲求は、生活水準に対して安定した雇用や報酬が得られていなければ現れませんので、すべての人が持ち合わせている欲求ではありません。
現在の日本国内においても、雇用が安定しない、十分な報酬を得ていない、社会保障に不安があるなど、物質的欲求のステージにいる人は大勢いると推測されます。
4.承認の欲求
3つの欲求が満たされた人は、承認の欲求のステージに移行します。
これは「人に認められたい」「集団の中で価値のある人だと思われたい」という他者評価や「自分で納得のいく行動がしたい」「自尊心を持ちたい」など自己評価を得たい気持ちです。
ビジネスでは所属している部署やチーム内で「地位を確立したい」「成果を上げ尊敬されたい」あるいはクリエイティブな仕事ではクライアントの評価だけでなく自分自身納得のいく制作物を作りたい、などが当たります。
承認の欲求は基本的には生活・仕事がある程度うまくいっている人でなければ現れませんが、近年ではSNSに投稿した写真やコメントに「いいね!」と付けてもらいたいという人が多くなり、それらのすべてが下層の欲求を満たしているとは限りませんので、マズローの時代より世の中が複雑化しているのかもしれませんね。
5.自己実現欲求
最後は今回のテーマ「自己実現欲求」のお話です。
この欲求は「自分の持つ能力や可能性を最大限に発揮したい」という高度なもので、「生理的欲求」から「承認の欲求」まですべてが満たされていないと現れません。
また他の欲求は「足りないものを補いたい」というもの「欠乏欲求」であるのに対して、自己実現欲求は自分自身に対する「成長欲求」であるという点が決定的に違います。
ビジネスにおいては次のような例が当てはまります。
・新卒で入社して10年、やりがいのあるプロジェクトに参加し大勢のチームの一員として経験を積んだのちチームリーダーに抜擢、昇進も伴い給与も家族を養い貯蓄が出来るだけのものを得る事が出来るようになった。会社の業績も右肩上がりで社会的地位も確立しており、近所からも一目置かれる存在となった。
しかし、昨年ふとしたことがきっかけで満たされていない自分に気づく。それは大学に入るまで夢だった世界をまたにかけるエンジニアへのあこがれだった。しばらく考えていたがどうしても自分の気持ちに嘘はつけず、社内の慰留や家族の反対を押し切って転職。企業規模も下がり給与は半分に減ったが、夢に向かって非常に充実した生活を送っている。
★このように自己実現欲求は時として下層欲求と相反する行動をとることもあります。
欠乏しているものを満たすわけではないので、物質的・精神的な顧みを求めないことが特徴ともいえます。
これらのことを踏まえると、日本国内においても「自己実現欲求」を持っている人はそれほど多くないのではないかと推測されます。「自分には自己実現欲求がない」と決して悲観することはないのです。
自己実現欲求を満たす方法
自己実現欲求を満たすには、という前にまず5段階欲求を順序よくクリアしていく必要があります。
前述のビジネスシーンに当てはめた事例で考えると次のようなステップで満たしていくことになります。
【ステップ1~4】
1.就業する
・アルバイト・起業含み、まずは就業することからスタート
2.安定した雇用形態につく、あるいは安定した収入を得る
・正社員を目指す
・フリーランスであれば安定した収入源となるクライアントを獲得する
3.コミュニティに入る(あるいはそれを作る)、周囲の人を巻き込んで仕事が出来るようになる
・社内のプロジェクトチームに参加する
・社内外の人と関われる業務を任せてもらえるようになる、
・フリーランスであれば同業者とのコミュニティづくり
・あるいはクライアントのチーム内で活動する
4.成果を上げ、社内外で認められる、社会的地位を確立する
・昇進
・社内表彰
・フリーランスであれば利益を出して法人化
・あるいは雑誌に掲載されるなど広く認知される
【ステップ5】(ステップ1~4をクリアしていることが前提)
5.自己実現
上記4ステップをクリアすればいよいよ最終ステップ「自己実現」です。
自己実現とは、報酬や社会的地位、あるいは欠乏している何かを補うためのものではありません。
・自分が今の仕事に本当に満足しているのか、してないので合えばその要因は何かを特定する
・特定した要因に対して、自分に何が出来るかを考える(社内外問わず)
※特定した要因が物質的なものであればステップ4以前に戻る
・行動に出る
「行動」は「資格取得」「スキルアップ」「転職」「異動」など人によって違います。そして決して物質的な目的の為ではなく、「自己実現」の為でなければなりません。
それらをすべてクリアした暁に、「自己実現欲求」が満たされるという成果を得られるのです。
まとめ
職務経歴書や大学生のエントリーシートをみると「自己実現」という言葉が頻繁に使われています。
しかし自己実現の本来の意味を理解すると、この言葉に非常に重みがあることがわかります。
仕事上で自己実現欲求を意識したことがない人も、「向上心がない」ということではありません。
むしろ、家族のことを考え、会社にロイヤリティを感じて、今置かれている環境の中でベストを尽くすのも立派な選択の一つだと思います。
多くの方が、生活やビジネスにおいても自分に合った良い選択が出来る事を祈っています。
Comments